2021年度 「CINGA日本語学習支援者に対する研修プログラム普及事業」 報告
CINGA日本語学習支援者に対する研修プログラム普及事業とは
CINGAは、市民活動を通した多文化共生社会の構築を目指す専門家の集まりです。日本語教育の推進に積極的な自治体や国際化協会に対しては、「多文化共生の地域づくりのための日本語教育」という視点から、事業支援を行っています。その事業の一つが文化庁委託「CINGA日本語学習支援者研修プログラム普及事業」です。2020年度に札幌市と茨城県、2021年度に千葉県と長崎県で実施しました。
1)事業の目的
地域日本語教室は、日本語学習の場であるだけでなく、多様な言葉や文化を持つ人々の対話の場です。その担い手である日本語学習支援者の育成は多文化共生のまちづくりに不可欠であり、持続可能な育成の仕組みの構築も課題となっていました。そこでCINGAが文化庁委託事業として2018年から2年間で開発したのが「CINGA日本語学習支援者に対する研修カリキュラム」です。
2020年からは「多文化共生のまちづくりの中核を担う人材を育成し、持続可能な日本語学習支援者育成の仕組みの構築を図ること」を目的とした普及事業に移行しました。具体的には、対象地域の自治体職員やコーディネーター、日本語教師などがチームをつくり、CINGAが伴走する形で、地域の実情に合わせた研修プログラムを作成し、実際に市民向け研修を実施します。こうした過程そのものが、その地域の日本語教育を考え、関わる人々のチーム性を育む大事なプロセスと考えています。
目的・目標
この事業の目的は、多文化共生社会の形成を目的として日本語学習支援を行う市民を育成する研修を整備・実施することです。日本語学習支援者研修は、受講者に以下の3つの気づきをもたらすことを目標として行われます。
・他者理解のために、個の文化、新たに作り出される文化など、文化のさまざまな側面に気づくこと
・言語調整能力を上げることの大切さに気づくこと
・相手のことばを受容することの大切さに気づくこと
日常生活の中で、市民が外国人と出会う場面は多様です。本研修に参加した人々がこの多様な場面において、この3つの気づきや視点をもって相互理解のためのコミュニケーションができるようになることを目指します。そして、多様な人が集い、相互学習を重ねていく市民活動の場である日本語教室においては、実効性のあるコミュニケーション支援ができるようになることを目指します。
この3つの気づきや視点が日本語教室を含む多様な市民活動や日々の生活の中で生かされることが、多文化共生の市民社会形成に寄与すると考えます。
*「日本語学習支援者」とは?
外国人のための日本語教育に関わる人には、3つのカテゴリーがあります。「日本語教師」「日本語教育コーディネーター」「日本語学習支援者」です。日本で生活する外国人が言語としての日本語を日本語教師から学ぶ機会は、公的に保障されることが望まれます。一方、地域住民とのコミュニケーションを通して、言葉を獲得していく機会もまた、多文化共生のまちづくりの観点から見て、欠かせないものです。「日本語学習支援者」は、後者の場に参加する人々を含む、と考えることができます。
2)事業のプロセス
カリキュラム普及事業のプロセスは、以下の3つのプロセスに分けることができます。①〜③の全てのプロセスにCINGAのコーディネーターとカリキュラム開発に関わったメンバー(アドバイザー)が伴走し、各地域の置かれた状況や集まった参加者の状況を見ながら、このプロセスを円滑に進めるためには、何が必要で、何をどう議論していけばいいかなど、よりよい学びの場形成を目指して検討を重ねました。
①日本語学習支援者研修講師候補者および実施関係者による日本語学習支援者研修づくりに向けての学び合い
②日本語学習支援者研修設計と研修の実施
③日本語学習支援者研修実施の評価とふりかえり
以下、それぞれのプロセスについて説明します。
①日本語学習支援者研修講師候補者および実施関係者による日本語学習支援者研修づくりについての学び合い
→「実践研究コミュニティ」
持続的に地域日本語教育を推進していくためには、立場や役割の違う人々が共通の認識を持ち、同じ方向に向かって動こうとする土台が必要です。この事業では、対象地域の自治体職員、国際化協会職員、コーディネーター、日本語学習支援者研修の講師候補者、CINGAのプログラム開発メンバーらが集まり、対等な立場で学び合う場を持ちます。これを「実践研究コミュニティ」と呼びました。
2021年度の「実践研究コミュニティ」は全9回あり、毎回テーマを決めて実施しました。CINGAのプログラム開発メンバーが話題提供者となり、研修カリキュラムについて知り、「日本語学習支援」、「多文化共生」、「異文化理解」などの学びを深めました。多様な背景をもったメンバーが同じ場で学び合うことで、お互いの視点を知り、自らの視点を広げる場となりました。
②日本語学習支援者研修設計と研修の実施
→「実践コミュニティ」
「実践研究コミュニティ」での学びの後は、それぞれの対象地域に分かれ、市民向け研修の実践に向けた具体的な準備が進められます。この話し合いの場を「実践コミュニティ」と呼びました。参加者は、それぞれの地域の自治体職員、国際化協会職員、コーディネーター、日本語学習支援者研修を担当する講師で、研修実施に向けてチームで動きました。
研修プログラムは、各地域のプログラムコーディネーターが中心となり、「実践研究コミュニティ」での学びや気づきをどのように研修プログラムの内容に取り入れるかをチームで話し合いながら、設計します。チームで取り組むため、メンバー間の意見調整など大変な面もありますが、この過程を経ることで、よりよい「チーム」が構築されました。
なお、この過程では全てにCINGAのコーディネーターが関わりました。孤立感を抱えがちな各地域のプログラムコーディネーターを支えることは、その後の地域の仕組み作りのためにも重要であるからです。必要に応じてCINGAのカリキュラム開発メンバーも加わり、よりよい研修に向けて話し合いを重ねることもありました。
③ 日本語学習支援者研修実施後の評価とふりかえり
「実践コミュニティ」での取り組みやその結果について改めて考え、言語化してふりかえりを行うためには、他者の存在や場が必要です。研修実施後は、「実践コミュニティ」での実践を「実践研究コミュニティ」に戻して、議論します。ふりかえりにより、研修開発や研修実践に携わったメンバーが、今後の地域日本語教育の推進に向けた課題を整理し、次のステップを検討できるようにします。
記者の目
この報告記事は2021年度の取り組みに密着した金子さんに書いていただきました。金子さんの感想記事はこちらです。
事業の結果報告
2022年10月24日に、過去2カ年の研修実施地域による報告会を実施しました。
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